お酒を飲み過ぎて自宅が浸水してしまった時、身に染みるたったひとつの言葉
「昨日は、すごく楽しそうでしたよ」というのは一緒にいた後輩の証言。
ちょっとめんどくさいことが立て続けに起こったせいもあって、いつもよりハイペースでお酒を飲み続けたのは覚えている。
最後に行った〆のラーメンをほとんど食べないまま、徒歩5分の自宅へタクシーで帰っていったという。
目を覚ましたら、自宅マンションの階段だった。
部屋まであと少しというところで息絶えて、眠ってしまったらしい。
帰る途中で水たまりにでも突っ込んだのか服が濡れている。
寒い。
11月の朝方はけっこう冷え込む。
これが真冬だったら凍死してるとこやで。
重い身体を引きずって、なんとか自分の部屋までたどりつくことができた。
知ってる、天井
猛烈な吐き気と寒さのため、そのまま風呂場へ。
ワンルームの風呂場は玄関の横にあるので助かる。
眠気もハンパないのだが、まずは身体を温めないことには生きた心地がしない。
濡れた服は脱ぎ捨てて浴槽に入る。
お湯が溜まるまで待っている余裕がないので、シャワーを浴びながら耐えることにした。
ユニットバスの浴槽はコンパクトなので意外とすぐにお湯が張れるのだ。
小さな浴槽の中で膝を抱え、三角座りをしながら震えている33歳の姿は人に見せられたもんじゃない。
お湯が半分ぐらい溜まってきて、やっと足先にも感覚が戻り始めた。
風呂は命の洗濯よ。
安心したら意識が途絶えた。
マットの洗濯を
急に意識が戻った。
ボクはまだ浴槽の中にいた。
しかし、浴槽に溜まっているのはお湯ではなく水だった。
シャワーからは引き続きお水が出ていらっしゃる。
全身水風呂に使っているのに不思議と寒さは感じない。
夢。もしくは、感覚が麻痺しているのかも。
ただ頭はすごくすっきりしている。
どれだけ時間が経っているのかは分からないが、完全に水風呂になっていることから考えて1時間以上は眠ってしまっていたようだ。
ウチのマンションはガスがないため、お湯は深夜電力で沸かす。
なので、1度に大量のお湯を使うと水しか出なくなってしまうのだ。
まあええわ。
身体もきれいになったし、布団で寝よう。
タオルで身体を拭こうと脱衣所に移動した。
脱衣所というか、廊下に吸水マットを敷いただけの簡易的なものである。
そこで異変に気付いた。
吸水マットがぐっしょり濡れている。
オフトゥンダイバー
本来は身体の水分を吸い取るためにある吸水マットが始めから濡れている。
その状況が意味するもの。
部屋の床が濡れてるってこと?
浴槽を振り返ると、さっきまでシャワーから出ていた水が風呂場の排水能力の限界を超えてあふれ出しているのが分かった。
ああ、そっか。最悪なヤツだ。
ボクの部屋は8割以上水に沈んでしまった。
目の前にはオリンピック選手でないと飛び越えられないぐらいに成長した水たまりが広がっている。
唯一の救いはベットがあったこと。
これが床に敷いた布団だったら、最後の希望までも奪われていたところだった。
今はすべてを忘れて眠ろう。
夢であるように。
男の戦い
目が覚めた。
いつも起きる時間を2時間もオーバーしていた。
今日は仕事。
すでに遅刻が確定している。
ベットから飛び起きた。
やっぱり床が濡れている。
急いで仕事に向かいたいのだが、いつも着ている服ももれなく水没している。
逃げちゃダメだ。
とりあえず押し入れの奥から適当な布を引っ張りだし、グズグズになった靴はあきらめてビーチサンダルで部屋を出た。
目前に迫っている師走の風が身に染みた。
「酒は飲んでも飲まれるな」
昔の人はいいこというな。
終劇